(2025年10月1日発行)
目次

お知らせ
在庫状況
オリーブオイル250ml、500ml、ザアタル、オリーブ石けんBasic、オリーブ石けんザクロ入りの全ての在庫があります。
出荷中のオリーブオイル
4種の独自ブレンドです。
・スーリ種(ガリラヤ地方、デイル・ハンナ村)
・バルネア種、コラティーナ種(ワディ・アーラ地方、アーラ村)
・ナバーリ種(ヨルダン川西岸地区、コフル・カドゥーム村)
若草のようなフレッシュな香りで、フルーティーさと苦味のほどよいバランス。クリーミーな舌触りで喉の奥にポリフェノールによる優しい辛味が残ります。
*このオリーブオイルはBIOL2025(イタリアで開催されているオーガニックオリーブの国際コンペティション)で金賞を受賞しました。現地やヨーロッパの有機認証を受けていますが、コストがかかるので日本で有機表示するための認証は取っていません。
<訂正>通信76号(前号)でスーリ種は「アラーべ村」と書きましたが正しくは「デイル・ハンナ村」。アラーべ村とデイル・ハンナ村は隣合わせで、オリーブ林はデイル・ハンナ村、提携の圧搾工場がアラーべ村にあります。
入荷したオリーブ石けん
届くまでに時間がかかりましたが、オリーブ石けんザクロ入りが3月に、オリーブ石けんベーシックが6月に入荷しました。
お客様からは「泡のきめ細かさが気持ちいい」「洗い上がりの肌の調子がとても良い」「この石けんを使ったらもう他の石けんは使えない」「私は76歳だけれどこの石けんのおかげでしわがひとつもなくて肌がつやつやなの。一生使いたい」という感想や、「とびひの孫が(他の石けんはダメだったのに)このオリーブ石けんでは洗っても痛がらなかった」と感想をいただいています。
石けんの品質が素晴らしいのももちろんですが、ナーブルスの印刷工場で作っている紙箱の品質も上がりました。8年前に紙箱を使い始めた時は、箱の接着糊が弱くて箱が壊れやすかったりしました。印刷がずれていたり、色がおかしいこともありました。それが今年2回入荷した紙箱はとてもしっかりしていました。
困難な状況で最高の石けんを作り続け、印刷工場でも技術を向上させているなんて、切なくなるくらいです。
刺繍製品の入荷予定
11月頃の入荷予定です。入荷しましたらパレスチナ・オリーブのWebサイトやSNSでお知らせします。入荷後数週間でほぼ売り切れることが多いです。
人気のトートバッグやサコッシュ、花柄パースの追加のほか、新柄のペンケース、刺繍栞など新作もあります。
「フィラスティーン(パレスチナ)」とアラビア文字を刺繍した栞は、国立民族学博物館の企画展示をきっかけに作られました。4x15cmで日本でイメージする栞よりは大きく、バッグに付けたりしても可愛いです。
クーフィーヤ販売中 <在庫限り>
7,000円(税込7,700円)、白黒タイプ
ご注文は一人1枚まで
ヨルダン川西岸地区の町、ヘブロンにある製造工場、ヒルバウィー社製クーフィーヤ。工場からではなくヘブロンのお店から仕入れました。ヘブロンはパレスチナ自治政府が管轄するH1地区とイスラエルが管轄するH2地区に分かれています。旧市街を含むヘブロン中心部にイスラエル人が入植している状態で、H2地区には約4万人のパレスチナ人と約千人のイスラエル人が住んでいます。H2のパレスチナ人は通行が制限されたり、外出禁止令がたびたび出されて家から出ることさえできなかったり厳しい制限下に暮らしています。また多くのお店が強制的に閉鎖され、営業できなくなっています。
改訂パンフレット
パンフレットを改訂しました。写真家の高橋美香さんが撮影した写真が増え、生産者さんの生き生きとした姿がいままで以上に伝わると思います。
ガリラヤのシンディアナ
毎年、世界女性デーや世界フェアトレードデーにガリラヤのシンディアナ(以下シンディアナ)は連帯の写真や動画を出しています。今年のフェアトレードデーは、昨年末にスタッフになったばかりのジナーンさんが活動について話すメッセージ動画でした。
動画の最後には「私の将来への願いはシンプルです。それは、平和、共存、そしてお互いを尊重し、子どもたちのためにより良い暮らしを築くことができる、公正な社会です」と堂々と述べていました。訪問時に会ったときには大人しい印象でしたが芯の強さを感じました。
ヨルダン川西岸地区でもイスラエル軍による攻撃・封鎖・追放、入植者による攻撃が激化しています。イスラエルへの「出稼ぎ」労働もこの2年間ほぼ停止となっているなか、シンディアナは以下のようにヨルダン川西岸地区の人々との連携も深めています。
コフル・カドゥーム村農業協同組合へのフェアトレードプレミアム
シンディアナが得ている「フェアトレードプレミアム」*で、ヨルダン川西岸地区コフル・カドゥーム村農業協同組合のオリーブオイル圧搾工場にソーラーパネルを設置したり、村の学校のグラウンドの補修をしたり、オリーブの枝の剪定機器を購入したりしました。
コフル・カドゥーム村農業協同組合はシンディアナの契約オリーブ農家の一つで、今年度パレスチナ・オリーブが出荷中のオリーブオイルにもこのオリーブオイルが配合されています。私は2024年末に訪問しました。
*「ガリラヤのシンディアナ」は、WFTO(世界フェアトレード連盟)に加盟し、認証を受けています。フェアトレードプレミアム(奨励金)は、商品を購入する際に、本来の商品価格に上乗せされて支払われ、地域コミュニティの経済的・社会的・環境的開発のために使われる資金です。つまり、私たちがオリーブオイルを買う商品価格の一部がコミュニティの支援に使われています。
西岸地区ベドウィンコミュニティへの訪問
前号にも書いた、「平和のための蜂」プロジェクト。このプロジェクトには、イスラエル内のユダヤ人、パレスチナ人、ヨルダン川西岸地区のパレスチナ人などさまざまなグループが参加しています。シンディアナと独立労組「マアン」*の女性たちも参加団体の一つです。
しかし、ヨルダン川西岸地区のパレスチナ人はエルサレムやイスラエル内に行けず(特別な許可証が必要)、集まることができません。イスラエル内のパレスチナ人がヨルダン川西岸地区に行くのは比較的容易なので、シンディアナとマアンの女性たちが、ヨルダン川西岸地区ハーン・アル・アフマル集落にある、ベドウィン・コミュニティ(ジャハリーン部族)のパレスチナ女性グループを訪問しました。
ハーン・アル・アフマル集落はヨルダン川西岸地区にありますが、イスラエルが治安・行政を支配しています(C地区)。エルサレム近郊の巨大な入植地マアレ・アドミムの西にあり、戦略的にイスラエルが奪おうとしている土地です。
イスラエル当局によって、電気・水道・インターネット回線も敷設を禁じられ、基本的なインフラがありません。
ジャハリーン部族は1948年にネゲヴ(現イスラエル領)から追い出されてハーン・アル・アフマルに移住しましたが、再び追放の危機にあるのです。日々、ユダヤ人入植者*による暴力、脅迫、放火、羊の盗難などひどい嫌がらせを受けています。このような状況下での連帯となる大事な訪問でした。
*マアン:イスラエルのユダヤ企業(工場、建設現場、農場など)やヨルダン川西岸地区のユダヤ人入植地で働くパレスチナ労働者を支援している労働組合。シンディアナとも連携して活動しています。
*入植者は武装しています。入植者がパレスチナの集落を襲撃するときには、イスラエル兵士が付き添っていることも多い。
イスラエルによるイランへの攻撃時のこと
6月13日にイスラエル政府がイランへの攻撃を開始、イランも応戦し、25日に停戦となるまで、シンディアナも仕事ができない状況で、スタッフ・メンバーの多くは自宅待機になりました。港も空港も閉鎖され、海外への輸出停止措置で出荷もできませんでした。
私が連絡すると、シンディアナのスタッフは不安のなかでも「困難で複雑な状況だけれど、私たちの心はガザ地区、イスラエル、パレスチナ自治区(ヨルダン川西岸地区)、イラン、ヨルダン、シリアの人々と共にあります。」「シンディアナでは、このような困難な日々においても、互いの幸福を気遣い、最善を尽くして断固、活動を続けます。」とメッセージを送ってくれました。
イランからイスラエルへのドローンやミサイル攻撃には、ユダヤ人より、イスラエル内のアラブ・パレスチナ人の方が被害を受けやすいという現状(差別構造)があります。ユダヤ人の町・家屋には必ずシェルターがあります。家にいても外にいても、空襲警報が鳴ったら行ける場所があるのです。でも、イスラエル内のアラブ・パレスチナの村・家屋には十分なシェルターがありません。シェルターといっても、壁が他の部屋・建物よりもしっかりしている、という程度で、公共のシェルターがありますが全然足りません。
イランのミサイルがパレスチナの村を狙ってはいないと思いますが(ミサイルの目標がずれたということでしょう)、イランのミサイルで、ガリラヤ地方のアラブ・パレスチナの町、タムラで女性4人が殺されてしまいました。
しかし自分たちが差別的な環境・構造に置かれていることを話しにくい状況です。ガリラヤのアラブ・パレスチナ人は「ガザのパレスチナ人にはシェルターも家もない、どこにも逃げ場がないのに」と言い、ヨルダン川西岸地区のパレスチナ人も「ガザの人たちのことを思えば、自分たちの状況なんて文句言えない」と言っていたりします。でも攻撃も占領も差別もあってはならないことです。
ナーブルス石けん工場
苦しい状況が続いています。
4月、ナーブルスの町に隣接するバラータ難民キャンプにイスラエル軍が大規模侵攻、キャンプは封鎖、というニュース*を聞いて、石けん工場に慌てて連絡しました。
でも工場主さんは「いまに始まったことじゃない。1月下旬以降ずっと状況は日々悪化」「ナーブルスの町を出入りするのはすごく大変だし(開いている検問所が少なかったり、開いていても通るのに何時間も待たされたり)、時にはナーブルスの町から出ることが全く不可能」「工場も一緒。行くのはとても大変だけれど、時々はたどり着ける」「自分たちだけではなくナーブルスの誰もがとても深刻な状況にある」と話していました。
6月のイスラエルによるイランへの攻撃の間は、ヨルダン川西岸地区全体が全面封鎖でした(他の町や村に全く行けない)。
三重県くらいの大きさであるヨルダン川西岸地区*に約1,000箇所の検問所があり、それぞれの町が孤立させられているのです。
ナーブルスのオリーブ石けんがユネスコ無形文化遺産に登録された時「(喜ばしいことだけれど)それより封鎖を止めてくれ」と言っていたことを繰り返し思い出します。人とモノの流れを止め、経済を窒息させる。これが「真綿で首を絞める」ということなんだろうと実感します。
*周辺にあるジェニン難民キャンプ、トゥルカレム難民キャンプ、ヌールッシャムス難民キャンプ(トゥルカレム近郊)はイスラエル軍の猛攻撃に遭い、1月には住民約4万人全員があてもなく追放され、戻れないまま8ヶ月が経っています。地元では「次はバラータ難民キャンプ」と言われていたので、慌てました。バラータも厳しい状況には置かれていますが、追放はされていません。
*ユダヤ系のイスラエル人の約10%がヨルダン川西岸地区に住み、ヨルダン川西岸地区全体では住民の約20%がユダヤ系イスラエル人となっています。
(イスラエルの総⼈⼝ 約950 万⼈のうち約200 万⼈がパレスチナ⼈。ヨルダン川西岸地区のパレスチナ⼈の⼈⼝は約 330 万⼈。ユダヤ⼈⼊植地に70 万⼈以上のユダヤ系イスラエル⼈が居住)
ヨルダン川西岸地区のうち、パレスチナ自治政府が行政・治安とも管轄する地区(A地区)は主な町を合わせた18%に過ぎず、その18%も点在する状態でそれぞれの町はますます孤立させられている。A地区のナーブルスも、B地区(行政はパレスチナ自治政府、治安はイスラエルの管轄)のイドナ村にも、毎晩のようにイスラエル軍が侵攻している。
イドナ村女性協同組合
刺繍団体のスタッフと打ち合わせしたときに新たな入植地のことが話題になり、「近くにアウトポスト*の入植地ができた」と言って、写真を送ってくれました。丘の上にいくつかの家が立ち、監視小屋のようなものも写っていました。
またスタッフは「E1計画」*が進んだら、いままで通りに出荷できるのかな、ということも心配していました。刺繍製品はイドナ村から直接日本に発送できるわけではなくベツレヘム近郊まで行き、エルサレムから日本に向けて出荷されています。この方法もいつまで続けられるかわからないのです。
*アウトポスト(前哨地)入植地:イスラエル政府非公認の入植地。最初は小屋のような小さな家屋を作って場所を確保。イスラエル政府は事実上黙認、事後的に政府が公的に認可することも多い。
*E1計画:2025年8月、イスラエル政府は、東エルサレム(パレスチナ人の居住区)の西にある大入植地マアレ・アドミムとエルサレムをつなぐ地域に新たに3,400戸の入植地を作ると発表しました。
これが完成すると東エルサレムがヨルダン川西岸地区から分断され、ヨルダン川西岸地区の北部と南部も分断されます。入植地同士がつながっていき、通れない壁のようになるわけです。
E1計画は、国際的な激しい反発もあって20年凍結されていたのですが、ここにきて計画が進むことになりました。
ある有機農家の危機
ヨルダン川西岸地区の町、トゥルカレムにある有機農家のファエズさん一家の農園に対し、8月7日「農園にあるビニールハウス・貯水タンク・収納庫など敷地内の建築物を9月3日までに取り壊すように」とイスラエル当局から通告が出されました。
2002年からのイスラエルによる隔離壁建設で農地の半分を失いましたが、他の農地を借りたりしながら農業を続けています。長年の有機栽培により地元で有機農業を学ぶ人たちの拠点になり、隔離壁建設反対の活動も行い、海外からの活動家の訪問先にもなっていた場所でした。私も2007年、2014年に訪問したことがあります。
いまイスラエルの裁判所に不服を申し立て、処分は保留中です。農園では、抗議の集会を開いたり、署名を集めたりとキャンペーンを行っていますが、厳しい状況のようです。
ジャーナリストの小田切拓さんの記事によれば「トルカレム周辺では、『安全の確保』を理由に、壁から数百メートルの緩衝地帯が設置されると考えられている」とのことです。
<参照>
・小田切拓「オスロ合意から30年 『土地なき民』になったパレスチナ人」(「週刊金曜日」2023年11月30日号)
・小田切拓「住民を閉所に『追い込み』、軍事力で統制する」(「週刊金曜日」2025年9月19日号)
・平井/「ゴーストマガジン」発行人note 小田切拓氏のコメント「パレスチナ人の食料主権を破壊するイスラエル トルカレムの農家が緊急声明」
パレスチナの「国家承認」
いま「国家」と言っても、ガザ地区も西岸地区もズタズタに引き裂かれ、イスラエル軍がやりたい放題、国家の実態はありません。
国家承認や二国家解決のニューヨーク宣言は、ハマースの武装解除と排除など「条件付き」となっている一方、難民の帰還権、既存のユダヤ人入植地については何の言及もありません。これでは1993年のオスロ合意の二の舞どころか悪化しています。
パレスチナの人たちがどんな国をどうやって作っていくのかはパレスチナの人たちが選択することだと思います。各国政府が行うべきは、国際法に基づいて、イスラエルに直ちに攻撃・占領をやめさせることです。
いま必要なことは、口先だけの非難や決議、国家承認ではなく、具体的なイスラエルへの武器禁輸や経済制裁ではないでしょうか。
日本政府は、公的年金によるイスラエルへの投資を止める*、日本が購入を検討している軍事ドローン購入先候補からイスラエルの軍事企業を外す、日本イスラエル投資協定や日本イスラエル防衛交流の覚書を破棄するなど、今すぐ具体的な行動をとってほしいです。
*年金積立金管理運用独立行政法人によって、イスラエル国債約2400億円、イスラエル最大の軍需企業であるエルビット・システムズなど武器や軍事物資を提供する企業、入植地・住民追放を行う企業への投資に約8700億円が年金から運用されています。
菅瀬晶子さんを偲ぶ
パレスチナ研究者(国立民族学博物館教授)の菅瀬晶子さんが2025年3月末に亡くなりました。『ウンム・アーザルのキッチン』(福音館書店、たくさんのふしぎ2024年6月号)の著者。
癌で闘病中だった菅瀬さんが亡くなったのは、ちょうどこの本が、世界最大の児童書見本市、ボローニャ・ブックフェアの「BRAW Amazing Bookshelf 2025 - Sustainability」 に選出されたことが公開された日でした。選書は2026年初めにニューヨークの国連本部でも展示される予定。ハイファに住むアラブでクリスチャンの女性の暮らしを生き生きと描いた素晴らしい絵本です。
国立民族学博物館では2025年3-6月に「点と線の美学―アラビア書道の軌跡」展が行われました。この中で、生前に菅瀬さんの提案・企画し、サラームの水本さんがコーディネート、イドナ村の女性たちが作り上げた、イドナ村の刺繍団体の作品も展示されました。パレスチナの地名(アラビア語)を刺繍したタペストリーです。
尊敬する研究者さんでした。2000年10月にシンディアナのスタッフの実家のオリーブの実を一緒に収穫したのを覚えています。ずっとシンディアナのオリーブオイルを愛用してくれました。2024年6月にお会いしたのが最後になりました。早い死が残念でなりません。平安をお祈りします。
オススメ新刊 特集
高橋美香『シロくんとパレスチナの猫』
(かもがわ出版、2025年12月刊行予定)
前作『ママとマハ』で書かれた、マハさん家族のその後の話。高橋美香さんがヨルダン川西岸地区北部ジェニン難民キャンプに滞在し見聞きしたことが、猫さんたちを通じて伝えられます。
*刊行後、『シロくんとパレスチナの猫』は、パレスチナ・オリーブでも取り扱う予定です。
高橋真樹『もしも君の町がガザだったら』
(ポプラ出版、2025年7月)
「パレスチナで起きていることは、日本をふくめて世界の国々が深く関係している、だから解決のためには、現地の人たちだけじゃなくて、世界全体でかかわる必要があるんだ。」
わかりやすい言葉・文章で、基本的な歴史的事実や構造が丁寧に書かれています。それを知った上で、いま私たちに何ができるかを考えるきかっけになります。
「できること」の一つとして、パレスチナ・オリーブの活動も取り上げていただいています。
安田菜津紀『遺骨と祈り』
(産業編集センター 、2025年5月)
「沖縄への負担の押し付け、福島からの搾取、そしてガザ、パレスチナで起きている民族浄化、私はどれに対しても、この社会構造の中で『踏んでいる側』に立っている」 2018年2月から2024年11月。パレスチナ、福島、沖縄、東ティモール。何度も訪れ、取材・交流して書かれています。
踏んでいる側に立っていることを認識し、何を見て、どう考えて行動するか。自分の立ち位置やものの見方を考えさせられる本。
ライラー・エル=ハッダードとマギー・シュミット『ガザ・キッチン』
(オレンジページ、2025年6月)
2016年にアメリカで出版された『The Gaza Kitchen』第3版(2021年刊)の日本語翻訳。
「ガザの料理人、農家、商人たちの仕事ぶりを切り取った美しい写真と、ガザの人々の料理とレシピ、伝統、家族についての記録」(本書カバーより)
食べ物や料理が土地や暮らし、歴史と密接にかかわっていること、食文化を語ることの大切さがよくわかります。写真も文章も素晴らしい。
価格が4,500円+税、ということで個人で買うにはハードルが高いかもしれませんが、300ページ以上のボリューム、豊富な写真と文章なので、内容を思えば納得の価格です。
「はじめに」には、「ガザに住んでいる人は、政治ではなくレンズ豆について訊ねられるとほっとする。とはいえ、レンズ豆にはレンズ豆をめぐる政治的な物語があるのだが。」という文章があります。実感としてよくわかります。
私もパレスチナ訪問時に、友人知人から「(占領や政治状況に疲れ果て)政治の話はしたくない、考えたくない、料理の話ならなんでも聞いて」という雰囲気を感じることがあります。私の訪問が彼女たちの気分転換になったらいいな、と思うので、自分からは政治の話はしません。それでも料理の話をすれば水の利用、野菜の輸送や値段の話になるし、子どもたちの話をすれば、学校の状況のこと、自治政府の予算不足の話になります。
出版された2016年の時点でもガザ地区の人々は厳しい封鎖のなかで暮らしていたわけですが、この本に載っている人たちがいまどうしているのか、考えるとやりきれません。
イベント案内(省略)
イラストで協力していただいた門眞さんの自己紹介
はじめまして。今回イラストを担当させていただいた、画家の門眞妙(もんま たえ)です。皆川さんと同じく仙台市に暮らしています。パレスチナのことを知ったのは、2023年5月に仙台のギャラリーで開催された「パレスチナのちいさないとなみ」展がきっかけでした。高橋美香さんが撮影された、生き生きと働くパレスチナの人々の写真。パレスチナの美しい刺繍製品。皆川さん、高橋さんと朗らかにお話しさせていただき、そんな場所があるんだなあ。分離壁?想像が追いつかないや…と、その日はザアタルとオリーブオイルを買い求めほくほく帰りました。その秋からイスラエルによる大規模攻撃が始まり、知るきっかけを頂いていたのに一歩も踏み出していなかった自分を恥じました。少しずつ足りない知識を補う中で、国際社会が動かないなら世界中の市民一人一人が動くしかない、と思い至り、抗議運動や私のアートの経験をちょっぴり活かした連帯運動をしています。常に最悪を更新し終わりの見えない現状に苦しくなりますが、できることをこれからも続けていきたいです。Instagram→行動フェス
編集後記
2000年12月に創刊号を発行したパレスチナ・オリーブ通信「ぜいとぅーん」ですが、今回、思い切って、文字や印刷を変えてみました(文字は、より多くの人に読みやすい「ユニバーサルデザインフォント」)。イラストをお願いした門眞さんとは、連絡取り合いながら活動しています。
お取扱店の主催で、訪問時の写真を映しながらパレスチナの暮らし、生産者さんたちの活動や状況についてお話会を行なっています。WebサイトやFacebook、instagramにイベント案内・報告を載せています。
まもなくオリーブの収穫期が始まります(10~12月)。無事に収穫できることを願うばかりです。日本に届くのは来年5月頃になります。
私たちはいま、この人は殺されてもいい人、この人は殺されてはいけない人、というかのように人を選別し虐殺が行われているのを目の当たりにしています。現実にも法的にも人が平等に扱われていません。日本でも、“日本人”ファースト、日本社会に“都合のいい”外国人ならいても良い、というような言説が目立っていることをとても怖いと感じています。人権は国籍、ルーツ、宗教、性別・性自認が何であっても、障がい(違い)があってもなくても、すべての人が持っているものです。いのちを分けない社会へ、と強く思います。
